テーマの磁性体とは、磁石のような物質のことです。正確にいえば、磁石は磁性体の一種です。「磁性体」 という言葉は、「磁石」という言葉も広い範囲の物質をさします。例えば鉄。台所の鉄のスプーンを 磁石に近づけるとくっつきます。しかし、お皿などの陶器や木のまな板などはくっつきません。なぜ 鉄のスプーンはくっつくのでしょうか?じつは、鉄を作っている鉄原子はそれ自体が小さな磁石のような 性質を持っているのです。これが鉄が磁石にくっつく原因です。しかし、鉄原子が小さな磁石なら、 それが集まってできている鉄のスプーンも磁石になりそうなものです。ところが、鉄のスプーンは 磁石にはなっていません。これは、普通の状態では小さな磁石の向きがばらばらになっている為、磁石と しての性質が全体としては打ち消されてしまっているためです。(下図左)

(※注意:上の説明では簡単のため省いていますが、本来鉄原子は磁気モーメントの向きがそろった領域 (磁区)を形成しており、磁気モーメントの向きが違う磁区が多数集まって鉄を作っています。このため、 打ち消しあうのは磁区のモーメントです。)

磁石を近づけると、このばらばらだった小さな磁石が近づけた磁石に反応して向きをそろえます。(上図右)このため鉄は全体として磁石になり、近づけた磁石にくっつくのです。

このようにして1度小さな磁石の向きをそろえると、この小さな磁石の向きはしばらくの間はばらばらな状態 には戻りません。このため、磁石にくっつけた鉄のスプーンはしばらくの間は磁石として働きます。熱を加えたり、 衝撃を加えたりすると、再び小さな磁石の向きはばらばらになり、鉄のスプーンの磁石としての性質は失われます。

先の鉄のように、一度小さな磁石の向きをそろえると磁石になるものを「強磁性体」といいます。 磁石に反応はするけれど自分自身磁石にはならないものは「常磁性体」といいます。

この展示では、こうした「磁性体」の実験とシミュレーションを行います。

・実験

上の例では磁石を近づけましたが、ほうっておいても 小さな磁石は同じ向きどうしで集まって同じ向きにそろった小さな領域を作ります。(小さな磁石はなるべく 周りの小さな磁石と同じ向きを向きたがります。)これを磁区といいます。先ほどの鉄のスプーンは 磁石を近づけると小さな磁石の向きはすべてそろって大きな磁区を作りましたが、特別な物質、特別な 条件をそろえてやると、磁区は縞模様になったり泡がたくさんできたりします。この磁区は普通は見ることが できません。そこで、特別な方法でこれを見られるようにします。今回の実験では、この小さな磁石が 泡を作ったり、縞模様を作ったりするところを見てもらいたいと考えています。

・シミュレーション

実験では、実際に縞模様等を見てもらいますが、それを見て「へ〜」というだけでは科学とはいえません。 なぜ、どうしてそれができるのかを考えてこそ科学といえます。ところがこのたくさんの小さな磁石の動き を追うのは人の手ではとても無理です。そこでコンピュータの力をかります。今回はイジングモデルという 磁性体のモデルを使ってこの縞模様や泡のでき方を計算で追います。下は、シミュレーションの 開発中画面です。

この展示では「磁性体」の不思議な性質を見ることができます。興味のある方はぜひお越しください。

東京大学工学部 物理工学科 計数工学科 有志

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